スタート地点に立つ

事業の始め方を決める



投稿日:2022年3月25日 | 最終更新日:2023年11月6日

創業か承継か決める

創業か承継か

会社を承継――引き継いで経営するのも起業の方法の一つです。一昔前までは、親の会社を継ぐなどが一般的でしたが、今はそうとも限りません。個人でも買い手になれる事業承継、M&Aのマッチングサイトや支援サービスも数多く存在します。ですので、「会社(事業)を買って起業する」というのも選択肢の一つです。

とはいえ、「自分で創業はしないで、会社または事業、事業の一部を買い取って経営しよう」と考えている場合でも、「事業計画を作る」の過程は一通りやっておくことをおすすめします。これをやっておくと、買おうとする会社や事業が自分の目的に合うか、買っても良い会社か、金額は妥当かを判断する助けになるからです。もちろんそれだけでは情報も知識も足りませんので、事業承継、M&Aに関する勉強と専門家の助けが必要です。

特にここでは専門家の支援は重要です。なぜなら、多くの場合、会社や事業を買うのは一度きりの事だからです。M&Aそれ自体をなりわいとするなら別ですが、一度のことに費やせる時間でそのことを極めるのは難しいです。お金を払っても専門家の力を借りる方が、結局は費用対効果が高いことが多いのです。これは起業に関する他の手続にも言えることです。

ただし、「丸投げ」は危険です。
自分の会社、事業、資産について責任を負うのは常に自分です。だからこそ、判断するだけの知識も必要です。
これも何事についても同じ事が言えます。「○○士さんに丸投げ」で起業家が資金をだまし取られたり、いい加減な事をされたり、多くの失敗事例があることはご存じでしょう。専門家の力を借りることも起業家に必要なスキルの一つですが、専門家の仕事を判断する目を養うのも重要なことです。もう一つ、専門家に頼むことと、頼む必要がないことを見分ける目を養うことも重要です。当サイトでは基本的に自分でやれることは自分でやれると書いていますので、ご参考にしてください。

話がそれましたが、創業にこだわらないのでしたら、ご自分が考えた事業計画に沿った会社、事業が売り出されているかどうか調べてみましょう。いくつかのマッチングサイトで検索してみるだけでも検討材料にはなります。

中には法人でなければ対象にならない、情報を見ることもできない案件もありますが、買って起業すると決めたなら法人を作るのも必要なステップです。
そして、何事にも最適なタイミングというものが有りますので、ある程度具体的なことが話せるだけの材料ができたら、事業承継に詳しい専門家に相談したほうがいいでしょう。事業承継に関する補助金が利用できる場合もあります

承継について文字数を費やしているので、承継に偏ってすすめているように思われるかもしれませんが、そういうわけではありません。あくまでも選択肢の一つです。

承継の場合はリソース(設備、人材、顧客など)が揃った状態ではじめられるので、創業よりは楽な場合が多いのは確かですが、気付かずに負の資産を抱えてのスタートになってしまう事もありますから、手放しで勧められる訳ではないのです。売られている会社には売られている訳がある場合もあります。ですので、見極める力が必要なのです。

創業の場合は何もかも自分で揃えるところからはじめなければならないので、非常に苦しいことも多いですが、一から自分で作り上げていく達成感は何物にも代えがたいかもしれません。ゼロから一を作るときが最も大変なのは言うまでもありませんが、他社の失敗やブラックボックス化した問題を引き継ぐ危険は少なくともありません。

どちらを選ぶかは向き不向き、好き嫌いもありますので、じっくり検討してください。


法人か個人事業主か決める

法人か個人事業主か

起業の際に法人か個人かを決めるポイントはなんでしょうか?

よくいわれるのが、「年商○○○万円を超えたら法人化」というものですが、そこはポイントではないと考えます。なぜなら、「法人でなければ上手くいかない業種を個人ではじめて、規模が大きくなったら法人化」というのは理屈に合わないからです。法人でなければ上手くいかない業種というのは少なからずあります。にもかかわらず、年商○○○万円を超えたら法人化では、いつまでたっても上手くいかないどころか、上手くいかないまま廃業です。

ですので、法人で起業するか個人で起業するかのポイントは、法人でなければ上手くいかない又は法人の方がうまくいく業種かどうか」です。

どの業種がこれにあたるかは、全ての業種を網羅することはできないので難しいですが、概ね次のことに当てはまるなら法人である必要性はあまりありません

  • 個人相手の商売で(toC)実店舗がある
    • 例えば、飲食店や店舗販売が主の小売店、理美容業などです。
  • 個人のスキルを提供する資格職
    • 例えば、弁護士、税理士などの士業や専門職です。
  • 芸術家(作家、音楽家、画家など)
    • 特殊ですが、個人の才能が信用になる仕事ですので、法人としての信用は無用といえます。

一般的に、法人相手の場合は法人化しておいた方が無難です。特に行政相手に仕事をする場合は、法人でないと入り口に立てない場合も多いです。

あとは本質ではありませんが、社会保険に加入した方が得な場合というのもあります。社会保険というと加入しないで済む方法の需要ばかりが目立ちますが、必ずしも損ばかりではありません。

例えば前年の報酬が高額だった場合、前年の報酬を基準に国民健康保険、国民年金の保険料を払うよりも、新しく法人を設立して役員報酬を低額にし、その報酬に基づいて社会保険料を支払う方が安くなります。
家族を扶養に入れることもできます。

また、社会保険料を支払っていれば、病気や怪我で働けなくなったときは、経営者でも報酬相当額の2/3が最大1年6ヶ月まで支給されます。ただし、役員報酬が支払われていないことが前提です。これらの事を勘案して、法人化する場合もあり得ます。


株式会社にするか合同会社にするか決める

株式会社か合同会社か

法人を設立して起業する場合、もう一つ決めなければならないのは法人の形態です。

一般的には事業を行う目的は営利ですから営利法人であるいわゆる会社――株式会社、合同会社、合資会社、合名会社、合弁会社――ですが、合弁会社は複数の企業が協働で行う形態であるため、起業を考えたときに候補となるのは株式会社、合同会社、合資会社、合名会社です。しかし、無限責任社員が存在する合資会社と合名会社にするメリットは通常あまり考えられないため、実質的には株式会社が合同会社を選ぶことになります。

株式会社、合同会社の違いで起業家が気にすることは、

  • 資金の調達方法
  • 設立や運営手続の煩雑さ
  • 社会的な信用度

です。

株式会社・合同会社比較表

 株式会社合同会社
資金調達所有(株式)と経営が分離しており、広く出資を求める場がある(株式市場)所有(出資)と経営が一致している
設立費用定款の認証手数料3~5万円(資本金の額による) 登録免許税15万円~(資本金の額による) このほか、電子定款にしない場合は収入印紙代4万円登録免許税6万円~(資本金の額による)
設立手続定款の認証後に設立登記設立登記のみ
運営手続決算公告が必要決算公告不要
社会的信用それなりに高い株式会社に比べると認知度や信用度の面でやや劣る

合同会社の社会的信用度ですが、現在ではそれなりに上がってきており、一般的な取引で支障を来すことはほぼないレベルにまできていると感じられます。

将来的に株式を上場したい、会社を売却したいなどの目的がなければ、合同会社で問題はないと考えられます。
別記事で紹介している「特定創業支援等事業」を受けた証明があれば、登録免許税は半額になるので、合同会社は最低3万円あれば設立できます。手続についても、マイナンバーカードがあれば法人設立ワンストップサービスで全てできますので、非常に簡単です。特別な理由がない限りは、合同会社は有力な選択肢でしょう。
今現在、小規模起業で株式会社を選ぶ積極的な理由としては、「代表取締役」を名乗るためくらいでしょうか。ですが、この理由もあまり意味がないかもしれません。合同会社でも「社長」や「代表」、「CEO」などを名乗ることは何も問題ないからです。合同会社の法的な役職名「代表社員」があまり浸透しておらず、名刺などに記載するのに不便だというのでしたら、「社長」や「CEO」を使えば良いのです。

合同会社CEO

少しだけ非営利法人にも触れておきます。

念のため、この「非営利」というのは、儲けるために事業を行わないということではなく、利益を分配しないという意味です。つまり、株式会社であれば株主、合同会社であれば社員に対して利益を配当することがありますが、それがないということです。ですので、利益を出すこと自体は問題ありません。

非営利法人についても、一般社団法人や一般財団法人は比較的簡単に設立できますので、非営利団体はよくこちらを設立しています。一般財団法人は一般社団法人に比べると、設立者が300万円以上の財産の拠出をしなければならないので、設立のハードルは上がります。また、2期連続で純資産額が300万円を下回ると解散になってしまいます。

公益社団法人、公益財団法人、社会福祉法人などは税の優遇などがありますが、その分、事業内容に制約もあり、設立も難しいので、通常の起業では選択肢には入らないでしょう。 NPO法人については、これらほど設立が難しくないので、事業内容によっては検討する価値もあります。

⇒ 資金調達を考える